キノコのシーズンになりました。
今年の鹿沢はチビホコリタケ(ホコリタケ科・不食)があちこちに顔を出しています。

チビホコリタケ幼菌
チビホコリタケ幼菌

形がマッシュルームのようでおいしそうに見えるのですが、食用には適しません。
チビホコリタケなどホコリタケの仲間は、成熟すると色が黄褐色または灰褐色に変色し、頭部の中央に穴があいて、そこから煙のような胞子が飛び出します。

チビホコリタケ成菌
チビホコリタケ成菌
チビホコリタケ老菌
チビホコリタケ老菌

この胞子が耳の穴や鼻に入ると、そこからキノコが生えてくるといううわさ話があり、そのため、ホコリタケの仲間は「ミミツブシ」、「バクダン」のような名で呼ばれることがあります。

このうわさ話は本当でしょうか?

キノコなどの真菌に詳しい千葉大学真菌医学研究センターによると、ヒトに感染するキノコは2種類が確認されているということですが、これにチビホコリタケは含まれていません。

キノコがヒトに感染するって本当ですか?
はい。でも、もちろんマツタケやシメジがヒトに感染するわけではありません。これまでに感染することが知られているキノコは2種類(スエヒロタケ、ヒトヨタケ)だけです。これらは日本国内どこにでもよく見られるキノコです。
スエヒロタケ
スエヒロタケ
ヒトヨタケ 写真:袰屋
ヒトヨタケ
キノコの感染を予防するよい方法がありますか?
一番よいのは、このようなキノコの胞子が飛んで来る場所に行かないことですが、日本では難しいでしょう。キノコを食べていることとは関係がありません。
千葉大学真菌医学研究センター
  • 写真は編者

チビホコリタケは芝生にも発生し、芝生にリング状の模様を作ったり、枯らしてしまうことがあります。
これはフェアリーリング(妖精の輪)と呼ばれる現象です。
フェアリーリングは芝生の品質を低下させてしまうことから、ゴルフ場ではやっかい者になっています。

フェアリーリング 写真:東洋グリーン
フェアリーリング

西洋では妖精(フェアリー)がこの輪を作り、その中で踊ると言い伝えられています。
フェアリーリングは17世紀の学術論文に登場するなど、古くから知られる芝の病気です。
発生にキノコが関わっていることは知られていましたが、そのキノコが芝にこのような生理作用をもたらす原因は謎に包まれていました。

この現象の解明に挑んだのが静岡大学の河岸洋和教授(天然物化学)です。
河岸氏らはキノコが特別な物質を作っているとみて研究を開始。
その結果、菌に含まれるある有機化合物が芝の成長を促進することを2006年に突き止め、フェアリーリングの原因を解き明かしました。
この有機化合物は「フェアリー化合物」と名付けられました。

フェアリーリングができる仕組みはこうです。
キノコの菌が芝の張り替えなどの際に芝生に付着し、増殖して同心円状に広がっていきます。
円の縁ではフェアリー化合物が活発に働くため、芝の成長が促進されて、繁茂したり枯れたりします。
輪は年間数十cmずつ大きくなっていきます。

芝はイネ科なので、河岸氏はフェアリー化合物がコメの収穫量の増加に役立つとみて、イネにも与えてみました。
すると穂の数が多くなり、実験室の栽培では収穫量が25%も増えました。

河岸氏は

「フェアリー化合物はストレスに対する武器のようなもので、悪天候時に植物の潜在力を引き出す。農作に利用すれば、収穫増や生産地域の拡大で世界の食糧問題の解決に貢献できる可能性がある」

と話しています。

ゴルフ場のやっかい者であるいたずら好きな妖精たち。
しかし、気候変動や途上国の人口爆発で食糧不足が懸念される中、その妖精たちが人類を危機から救ってくれるかもしれません。

(F)